スイスでは、一九九二年に全代金支払いの八一%はこうした「振替」によるものだった。
スウェーデンでは七七%、オランダは六一%、ドイツは五〇%で、米国では一・入%である。
ニューヨーク・クリアリング・ハウスのジル・コンシダインがよく聞かせる、米国の銀行員の話がある。
ベルギーに二年間、転勤で行くことになった彼は、自宅の近くの銀行に口座を聞き、二年分の小切手をほしいと頼んだ。
一週間後、小切手が出来上がったと連絡を受けて、取りに行ってみると、四〇枚の小切手つづり一冊を渡された「余分にご入り用だと思いまして」E社は一九九五年に、「ワン・チェック」という名のジヤイロに相当するものを導入する計画を立てた。
電力会社や電話会社、信販会社、ガス会社、ケーブル・テレビ、それに市の上下水道も対象にするはずだった毎月、繰り返し、請求書を送るすべての人たちだ。
そのプロジェクトの責任者だった、若いシステム・デザイナーのリチャード・ピカリングは、こう語っている。
「スタートさせるのが難しかった。
ガスや電気の会社が八三もあって、それぞれ独自の代金請求のやり方を持っていたからね」。
計画では、企業は請求書を電子的にAに送り、Aは標準的な書式にそれを印刷、全部を一枚の封筒に収めて消費者に送ると、消費者は、その総額分の小切手一枚をAに送り返すというものだった。
そして年末に、Aは、納税そのほかの目的用に支払い額すべての記録を消費者に送る。
費用は月に一ドルで、消費者は支払い五回につき郵送料が一・六〇ドル(Aは郵送料払い込み済の封筒を一緒に送る)と、小切手代が平均で一ドル節約になる。
また企業の方は、Aに電子的に請求書を送るからこれも郵便代の節約になり、自社の銀行口座への直接振り込みで支払い代金を電子的に受け取れるので、小切手の処理費用も節約できる。
このプロジェクトについては四年間、徹底的に調査が行われた。
その結果分かったのは、米国の消費者の一〇分の一がすぐにもそのサービスを買うが、ほかは見送るということだった(全く関心を示さない人もいただろう。
「定年後の老人は、公共料金を払いに店頭の取り扱い所に行く。
それは社会との触れ合いで、その月のハイライトなのだ」とピカリングは言う。
ほとんどの州では法律によって、公益事業体は消費者が自分で払いに行けるように店頭に取り扱い所を設けるか、銀行で払えるように手配をしておくことを義務付けられている。
銀行は手を引きたがっている。
こうした支払いを処理する時間には一件につき一ドルから一・五〇ドルの費用がかかると試算している)。
Aは、このプロジェクトに二五〇〇万ドル以上をつぎ込み、テレビのコマーシャルも九五年秋のフットボール・シーズンに流れる予定だったが、そこへ電力会社数社が撤退したため、Aはこの冒険を取りやめた。
企業の挙げた理由は、請求書と一緒に消費者に送るパンフレットなどで宣伝する機会が失われてしまうというものだった。
Aのコンピューターによる、請求書を受け取った人の九八%はパンフレットなど全く見ないでゴミ箱に捨ててしまうという調査結果も、その気持ちを動かすことはなかった。
ピカリングは、「そう、ATMだって受け入れられるのに二〇年かかったんだからね」と、唇を査めて言うのだった。
代金支払いのジャイロやワン・チェック・システムは、複数小切手システムとは質的に違うことを、後々のために、ここでちょっと指摘しておく。
複数小切手システムでは、移動するのは支払人に対する請求権である。
従って、このシステムは、小切手を銀行に預けるのと支払人の口座から引き落とすまでの聞の期間、その請求権についての信用残高がプラスを示す。
この「フロート」は、デピット・トランスファー(借入金移動)・システムに必然的に生じる副産物である。
ジヤイロ・システムでは、最初の行為は支払人の被請求金額の総額をその口座から引き落とすことであり、システム全体を移動するのは、その時点で生まれたクレジット(貸し付け金)なのだ。
その法律的違いは極端であり、興味深くもある。
「クレジット・トランスファーでは、支払いの指示は支払いを行う者によって出される。
デピット・トランスファー・システムでは、指示は支払いを受け取る者が出す」とデピット・トランスファー・システムは時々、意外な授かり物をもたらす。
銀行の電子支払いシステムの前担当で、長年、オートメーテッド・クリアリング・ハウスの指導的理論家だったJ・ホワイトの推計では、一九九六年一月の大雪のおかげで支払い側は余分に三〇〇億ドルから四〇〇億ドルを数日間、利用できたという。
一方、クレジット・トランスファー・システムでは、実際には、大手銀行がFedワイヤを使って朝、勘定を決済する場合に連銀が与える日中貸し越しのように、支払人に対する信用延長が必要になるかもしれない。
スイス・ナショナル銀行と日本銀行は、市中銀行が中央銀行の諸設備を使って電信振り込みをしたい場合は、中央銀行にその金を預けることを要求して、このハードルをクリアしている。
だが連銀には、そういう勇気はない。
ニューヨーク連銀のオペレーション部門の上級副社長イスラエル・センドロピクは、支払いシステムについて中国政府の相談にのってきた。
中国では、民間人は小切手口座を持っていない。
企業だけだ。
センドロピクは、それはいいアイデアかもしれないと考えた。
「彼らにはこう言ったんだ。
『我々は、たまたま小切手を持っている。
そちらはお嫌いのようだが』とね。
でも結局は小切手を採用するんじゃないか」。
だが、恐らく中国は小切手なしでやるだろう。
今の中国では、ほとんどの企業が小切手を書かない。
代金の支払いはMカードで行う。
その情報は人工衛星に行き、上海とシンガポールに降りてくる。
そこではMカード・インターナショナルが、売掛金と買掛金の記録を保管する。
世界銀行もこのプロジェクトに関わっているが、米国の連銀は加わっていない。
中国は、連銀が考えもつかないような、時代の先端を行く支払いシステムを望んでいるのである。
例の私の小切手の追跡調査争二九九六年初めにやっていたら、全く違う体験をしていただろう。
ジエイクはガソリン・スタンドの奥の事務所で八〇歳過ぎまで働いて、九五年に亡くなった。
私が行くたびに、一九七五年に出した「バンカーズ」のような、いい本は今度いつ書くのかと聞かれたものだ。
バレー銀行はバンク・オブ・ニューヨークに買収されており、そのせいでパレー・ストリーム地区での滞留がなくなり、ニューヨーク連銀を省略することができる。
私の小切手はイースト・ハンプトン支店からバンク・オブ・ニューヨークのマンハッタンにある小切手処理センターに直接、行くことになる。
小切手を発行銀行別に振り分けるスロットが、二二ではなく二五ある、性能の優れた読み取り・分類機のおかげで、機械を通る道筋がいくつか少なくて済むようになっている。
また小切手は、次の日の朝にニューヨーク・クリアリング・ハウスのフロアに運ばれるのではなく、その日の晩に電子的なメッセージを発信し、クリアリング・ハウスのコンピューターを通じて私の銀行(現在はシティバンク)のコンピューターに送られる。
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